日本カジノの可能性を語る|髙倉章子インタビュー

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更新日:2024年11月18日

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今回、長年にわたりカジノ業界の最前線で活躍し、日本のリゾート施設構想でもその経験が役立てばと各方面で奔走している髙倉章子さんに、編集部が特別インタビューを実施しました。

髙倉さんは、日本企業として初めてアメリカ・ネバダ州でカジノ向けゲーミング機器事業に挑んだ「シグマ」の成長期を支えたメンバーであり、業界に多大な功績を残してきた方です。

髙倉さんの豊富な経験と知識には、カジノをレジャーとして定着させるための大切なビジョンが宿っています。その視点から、日本のカジノが持つ可能性についてお話を伺いました。

本インタビューでは、日本のエンターテインメント産業への熱意、カジノが社会に与える影響、そして健全なカジノ文化が日本に定着するための課題とチャンスについて、髙倉さんに熱く語っていただきました。

日本初のカジノ構想と政策への期待

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日本初のカジノ開業を控え、髙倉章子さんが日本のIR政策への期待を語ります。

世界各地のカジノを見てきた経験から、他国との差別化や、日本独自の魅力を取り入れるための提案を伺いました。

カジノ開業と日本の政策に寄せる思い

ー 2030年に大阪で予定されている日本初のカジノ開業に向けて、現在の日本の政策についてどう感じていますか?

髙倉さん:

私が育った株式会社シグマは、日本企業として初めて米国ネバダ州でゲーミング事業に挑戦し、私が入社した1983年には、州外企業としては初となるカジノ用ゲーミング機器の開発・製造・販売ライセンスを取得しました。

その後、50か国以上のカジノにゲーミングマシンを提供し、1987年にはラスベガスのダウンタウンに約430室のカジノホテルPark Hotel & Casinoを開業しました(1990年に売却し、現在はMain Street Station Casino Brewery Hotel)。

長年カジノ業界に携わり、日本にカジノができる日を40年以上待ち望んでいた者として、日本政府と大阪府の今回の決断をとても歓迎していますし、大きな期待を寄せています。

ただ、現在の日本のIR基本構想では、カジノ施設は全体のわずか3%未満に抑えられ、残り97%はMICE施設やホテル、レストラン、ショッピングモールなど、非ゲーミング施設を充実させる必要があります。

そのため、一施設あたり数千億円から1兆円規模の投資が求められ、参入ハードルが非常に高く、次に続く施設の実現が難しいのではないかと感じています。

国民の理解を得るためにここまで大きな構想が必要だったのかもしれませんが、大阪IRが成功した後は、地方の参入も進むよう投資ハードルを少し下げ、日本各地に広がることを期待しています。

また、今回惜しくも選ばれなかった長崎IRにも、ぜひ再チャレンジしていただきたいです。

日本のカジノに求められる独自の工夫

ー これまで訪れた世界各地のカジノやIRから、日本のカジノIRが他国と差別化するために取り入れるべきアイデアは何だと思いますか?

髙倉さん:

おもてなしの精神を始め、「ここでしか見られない、味わえない、買えない」「非日常」「夢の世界」「大人のテーマパーク」「究極の快適空間」など、いろいろな表現が考えられますが、やはり最も重要なのは「おもてなし」だと思います。

どの国でもカジノの従業員は、もてなすというよりも、どちらかというと顧客を管理・監視している印象が強いです。

ハイローラー向けのエリアではきっと特別なおもてなしが提供されているのでしょうが、そこは私も未体験なのであくまで推測です。

先ほど述べたように、日本のカジノでは、全体の面積のうちカジノ部分はわずか3%未満とされています。

ですので、同じアジア圏でも、韓国のカジノシンガポールのカジノとは一味違う「ここでしか味わえない」日本ならではのテーマパークのような空間を期待したいですね。

たとえば、カジノのゲームマシンを純粋な遊びとして楽しめるゲームセンターや、名機を集めたゲーム博物館、家庭用ゲームの歴史館、アニメの聖地となるオタク向け施設、巨大なガチャモールなどができたら、面白そうですね。

この分野は私の専門でもありますので、ぜひお力になれればと思います。

日本カジノに求められる新しい視点

ー 今後の日本のカジノ業界において、どのような変化や進展に期待していますか?

髙倉さん:

カジノは、フィリピンのカジノベトナムのカジノなど東南アジアを始め、多くの国で合法化され、ゲーミング規制など法律のもとで適切に管理されながら、健全な産業として発展しています。

「カジノ=賭場や鉄火場」というイメージは、そろそろ見直すべきだと思います。

カジノは、誰もが賭博を目的に訪れる場所ではありません。私にとっては、限られた予算の範囲でスリルや興奮を楽しむ、リフレッシュの場です。人生を左右するような大勝負をする場所ではないんです。

このようなイメージを払拭するためにも、カジノを楽しむための適切な教育や情報の提供が大切だと思います。

日本にカジノができることを機に、正しい理解が進み、娯楽を健全に楽しむための知識が広がることを期待しています。

カジノの社会的意義と楽しみ方のコツ

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カジノ業界に精通する髙倉章子さんが語る、日本の理想的なカジノのあり方とは?依存症への懸念を踏まえた社会的な意義、さらに初めての人でもカジノを楽しめるコツについて伺いました。

人に夢を与える理想のカジノの形

ー カジノ業界に精通する髙倉さんが考える「理想的な日本のカジノIR」とはどのような形ですか?具体的なビジョンやイメージがあれば、お聞かせください。

髙倉さん:

IR全体の構想について専門家ではありませんが、利用者の視点で感じることをお話しします。

カジノは“賭場”ではなく、“レジャー施設”として作る側も利用する側も考えるべきだと思います。

1987年に初めてラスベガスを訪れた際、観光客が気軽にカジノに立ち寄り、25セントや1ドルの掛け金でスロットマシンを楽しみながら、ジャックポットを当てて大喜びしている光景に出会いました。

「人に夢を与える、素晴らしい産業に携わっているんだ」という誇らしい気持ちになったのを覚えています。

日本ではどうしてもカジノに依存症や借金といったネガティブなイメージがつきがちですが、カジノは本来、余暇を楽しみリフレッシュするためのものであり、破綻を招くものではありません。

日本のカジノ法案では、国内の利用者に対して1週間に3回までの入場制限や6,000円の入場料が課される予定です。

しかし、こうした制限があると、つい入場料を取り戻そうとしたり、時間内に取り返そうとする気持ちが働いてしまい、賭け金が無意識に上がってしまわないかと心配しています。

実際のカジノの収益は「ハイローラー」と呼ばれる高額を賭けるお客様によるものが大半で、一般の方が楽しむカジノフロアは、あくまで気軽に楽しめる場になっているのです。

日本でも、昔のラスベガスのダウンタウンのように、ふらっと立ち寄って小銭で遊べるようなカジュアルなカジノ街ができればいいなと思います。

カジノの経済効果と地域に与える影響

ー カジノには依存症の懸念や反対意見もありますが、その一方で、カジノが社会に与えるポジティブな影響についてはどうお考えですか?

髙倉さん:

カジノには依存症への懸念や反対意見もありますが、一方で社会にポジティブな影響をもたらす面も大きいと感じています。

日本のIR構想では、カジノ収入にかかる税の30%が国と地方自治体に配分される予定で、これが地方の大きな財源となり、地域を豊かにすることが期待されています。

例えば、ラスベガスでは、法人税や個人の所得税、固定資産税、相続税など多くの税金が免除され、その分カジノ収益が地域を支え、宿泊や食事も他州より割安に提供されています。

また、マカオのカジノでは税の収益で、電気や水道料金が無料になったり、学費が無償化されたりしています。

さらに住民には年に一度、約10万円ほどの給付金が配られるなど、生活面でのメリットも多く提供されています。

私もかつて東京都府中市に住んでいた際、東京競馬場のおかげか、生活インフラがとても整っていて、ゴミを24時間出せたり、粗大ごみが無料だったりと、非常に便利でした。

こうした自治体の税収面から見ると、カジノ産業は非常に貢献度が高い産業だと思います。もし近くにカジノがあれば、私もぜひその自治体に住みたいですね。

髙倉さん流カジノのスマートな楽しみ方

ー カジノを楽しむコツや、髙倉さんならではのおすすめの楽しみ方を教えてください。また、初めての人でも楽しめるポイントがあれば教えてください。

髙倉さん:

カジノの醍醐味は、バカラやポーカー、ブラックジャック、ルーレットといったテーブルゲームにありますが、私は仕事柄もあって、スロットマシンで遊ぶことが多いですね。

大きな当たりは引いたことがありませんが、良い流れに乗ったときは一晩で20~30万円ほど勝つこともありました。

ただ、ギャンブルにのめり込まないためには、ゲームの仕組みを理解しておくことが大切です。

シグマの真鍋社長が著書『これからますます四次元ゲーム産業が面白い』で「商業賭博のパラドックス」について説明されていますが、商業賭博の本質は「胴元が最終的に勝ち、プレーヤーは負ける」という構造にあります。

しかし、ほとんどの人が勝てると思ってしまうため、誤解が生じるのです。

たとえば、スロットマシンのペイアウト率は多くが80%以上で、100枚のコインを入れると約80枚が戻ります。これを繰り返すことで最終的にはゼロに近づき、胴元が利益を得る仕組みです。

もちろん、一時的に大当たりを引く人もいますが、それは完全確率により出目に偏りがあるためで、基本的には「誰もが公平にチャンスがあるものの、全員が勝てるわけではない」というルールです。

カジノは「限られた予算内で楽しみ、良い波が来たら乗り、流れが悪ければ引き際を見極める」ことが大切です。

カジノ業界での成功と次世代へのアドバイス

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長年カジノ業界で活躍してきた髙倉章子さんに、日本市場特有のニーズや業界の課題について伺いました。

また、印象に残るカジノ施エピソードを交えながら、業界で成功するために必要なスキルや心構え、そして次世代の若手や業界を目指す人へのアドバイスもお話しいただきました。

カジノ向けゲーミングマシンと日本市場

ー 長年カジノ向けのゲーミングマシンを提供する会社で働いてきたご経験から、業界の課題や日本市場特有のニーズについてどのように感じていますか?

髙倉さん:

株式会社シグマは、日本のゲームセンター業界で初めて「メダルゲーム」というジャンルを生み出した会社です。

創業者の真鍋社長は、経営者であると同時に哲学者や研究者でもありました。

彼は、世界中のカジノを回り、日本でも安心して楽しめる純粋なゲームとしてカジノマシンを広めたいという思いから、民法や刑法を徹底的に研究し、警察庁の許可を得てゲームセンター内にメダルゲームコーナーを設置しました。

現在はクレーンゲームが主流になっているものの、日本独自のメダルを使った疑似カジノのようなゲーム文化は今もゲームセンターに残っています。

また、ここ数年のポーカーブームで、日本でも気軽にポーカーを楽しむ人が増えています。

そこで腕を磨いたプレーヤーが世界的なポーカー大会ポーカートーナメントに勝ち進んだり、本場のカジノに挑戦する姿も増えています。

カジノ未経験の方にも、まずはゲームセンターで疑似カジノを楽しんで、カジノの雰囲気に慣れていただけるような環境が整うと良いですね。

忘れられない世界のカジノ体験

ー これまで訪れたカジノの中で、特に印象に残っている場所はどこですか?その理由やエピソードを教えてください。

髙倉さん:

これまで10か国以上のカジノを訪れましたが、やはりラスベガスが一番印象に残っています。

街全体が個性的なカジノで埋め尽くされていて、まさに「エンターテインメントシティ」と呼ぶにふさわしい、カジノの頂点だと感じます。

1987年、シグマのカジノホテルがオープンした際、取材で初めてラスベガスを訪れたのですが、秋田の片田舎で育った私には、その華やかさや豪華さが衝撃的でした。

米国IRには、豪華なホテルやきらびやかなカジノ、高級レストラン、世界中のブランドショップが併設されています。

さらに毎晩各ホテルやストリートで繰り広げられる華やかなショーやイベントに圧倒され、「どうしてこんな世界が日本にはないんだろう?」と感じました。

日本にもこんなカジノができて、世界に誇れる文化として根付いたら…と、40年以上願い続けて来ました。

カジノ業界での成功の秘訣

ー カジノ業界での成功に必要なスキルや心構えについて、若手やこれから業界を目指す人へのアドバイスがあればお願いします。

髙倉さん:

私が就職活動をしていたのは就職氷河期の頃で、何十社も落ちた末に、ようやく入社できたのが偶然カジノ関連の会社でした。

当時は「結婚までの腰掛け」として仕事に就く女性が多く私もそのつもりだったのですが、気づけばこの業界に42年。それだけカジノ業界の仕事は魅力的だったのだと思います。

2年後に入社した後輩には、カジノが好きでたまらない人がいました。

給料もボーナスもほとんどを世界中のカジノ巡りに使っていたようです。最初は別の部署にいましたが、後にラスベガスの高級カジノホテル「ウィン・ラスベガス」に派遣されたり、社内でもカジノ関連の仕事を任されるようになりました。

彼はカジノのコミュニティに積極的に参加し、自ら主宰もするほどで、カジノ事情にも詳しく、幅広い人脈を持っています。ここまでやり込めば、業界のエキスパートと呼べるでしょう。

彼のような人材は貴重ですが、やはりカジノに強い関心があり、人を楽しませることが好きで、新しいことに挑戦する意欲を持つ方々に、この業界を引っ張っていってほしいと思っています。

髙倉章子とは

髙倉章子氏は、日本のアミューズメントおよびカジノ業界で長年活躍する実業家であり、業界の成長に貢献してきたパイオニア的存在です。

1963年生まれの髙倉氏は、1983年に株式会社シグマ(現在のアドアーズ)に入社し、女性初の営業担当として実績を積み上げ、トップセールスとしての地位を確立しました。

その後もアミューズメントおよびカジノ用ゲーム機器の販売など、エンターテインメント業界で豊富な経験を積み重ね、業界発展のため尽力してきました。

2009年、髙倉氏は自身の経験を生かし、株式会社フロックを設立。代表取締役社長として、世界20か国以上にアミューズメントおよびカジノ用ゲーム機器を提供、またコンサルティングなどを通じて、日本市場にも新しいエンターテインメント価値を提案しています。

そのリーダーシップは、次世代の女性リーダーたちにとってもロールモデルとして、支持されています。

さらに、髙倉氏は一般社団法人若草プロジェクトのサポーター(故 瀬戸内寂聴氏、村木厚子氏が代表呼びかけ人)、一般社団法人国際メンタルイノベーション協会の理事も務め、業界を超えた多方面で活躍し続けています。

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